• Yumi ITAKURA

労働紛争のグローバル化と外国人労働者の救済を巡る課題と現状

1、はじめに

日本において「外国人労働」というと「技能実習」や「留学生」の労働搾取・差別の現状や制度的・構造的欠陥がクローズアップされがちである。しかし高度専門職、教授、技術・人文知識・国際業務など比較的社会的地位や収入レベルの高いイメージのあるホワイトカラー職に従事する場合でも、外国人であることにより遭遇する不利益や差別は、職業や在留資格によって変わるところはない。在留資格や職種、国籍などを問わず、外国人が不当解雇、ハラスメント、労働災害などの労働問題のほか、交通事故、離婚や子供の親権、面会交流、相続、後見制度など、日常生活と直結する法的トラブルに遭遇した場合であっても、外国人が利用しやすい法的救済制度や法的サービスが整備されていれば、より多くの外国人労働者が労働搾取等から救済され、泣き寝入りを防き、外国人労働に関する制度的欠陥の改善にもつながるはずである。さらに外国人労働の問題は、労働市場のグローバル化、IT技術の発展、各国の移民政策、送出国と受入国との関係や利害などが国境を越えて複雑に絡み合っている。もはや国内のみで抜本的解決することは不可能であり、海外の弁護士団体[1]や人権団体[2]、経済団体との情報共有や協力体制が不可欠である[3]。しかし政府・自治体、裁判所のみならず、我々、弁護士自身も語学力不足や内向きの姿勢から、海外とのネットワークや情報発信力も不足しており、外国人が利用しやすい法的救済制度・法的サービスへの意識・対応は遅れている。必ずしも日本語が十分でない外国人が、今現在、ここ異国「日本」で法的トラブルに巻き込まれているときに、いますぐにでもアクセスしやすい法的救済制度や法的サービスや情報提供が整備されていないこと、在留資格や在留期限によって法的権利行使の機会が事実上阻害されていることは、労働搾取や人権侵害の温存につながり、法律で保証された権利を行使する機会、法的救済を求める機会を奪っているといってよい。本論考においては、筆者が弁護士として多くの外国人からの相談・事件を受ける中で日々実感し、またいらだちや歯がゆさを感じている「外国人と法的救済アクセス」の問題について問題提起したい。

2、外国人労働者受入れの現状

まず日本における在留外国人の数、在留資格、構成等を概観したい。

法務省出入国在留管理局が2020年3月27日に公表した「令和元年末現在における在留外国人数について」によれば日本における在留外国人数(中長期在留者と特別在留者の合計)は293万3,137人となり,前年末(273万1,093人)に比べ,20万2,044人(7.4%)増加し,過去最高とっている。男女別では,男性が144万5,799人(構成比49.3%),女性が148万7,338人(構成比50.7%)となり,それぞれ増加している。これを国籍・地域別にみると全195(無国籍を除く。)のうち1位中国、813,675人 (構成比27.7%)(+ 6.4%)、2位韓国(446,364人。構成比15.2%。前年比- 0.7%)、3位ベトナム(411,968人。構成比14.0%。前年比+24.5%。4位フィリピン(282,798人。構成比 9.6%。前年比+4.2%)、5位ブラジル(211,677人。構成比7.2%。+4.9%)、6位ネパール(96,824人、構成比3.38%、前年比+9、7%)、7位インドネシア(66,860人。構成比2.3%。+18.7%)、8位台湾(64,773人、構成比2.2%、前年比+6.7%、9位アメリカ(59,172人、構成比2.0%,前年比+2.0%)、10位タイ(54,809人。構成比1.9%、前年比+4.8%)となっている。特にベトナム(24.5%増)とインドネシア(18.7%)増)は他の上位国と比し高い増加率となっている。

在留資格別にみると、在留資格別では,「永住者」が79万3,164人(対前年比2.8%増)と最も多く,次いで,「技能実習(1号イ,同ロ,2号イ,同ロ,3号イ及び同ロの総数)」が41万972人(同25.2%増),「留学」が34万5,791人(同2.6%増),「特別永住者」の地位をもって在留する者が31万2,501人(同2.8%減)、「技術・人文知識・国際業務」が27万1,999人(同20.5%増)となっている。

以上のように在留外国人増加傾向は、2010年以降、増加の一途であり、2018年末(273万1,093人)から2019年末(293万3,137人)までの1年間で20万2044人増加している。

併せて外国人労働者の受け入れも着実に進んでいる。2019年10月末時点の外国人雇用特別永住者を除く外国人労働者数(外国人雇用状況届出数)は、165万8,804人で、前年同期比198,341人、13.6%の増加(平成19年に届出が義務化されて以降、過去最高を更新)であり、外国人労働者を雇用する事業所数は242,608か所で、前年同期比26,260か所、12.1%の増加(平成19年に届出が義務化されて以降、過去最高を更新)である。国籍別では、中国が最も多く418,327人(外国人労働者数全体の25.2%)。次いでベトナム401,326人(同24.2%)、フィリピン179,685人(同10.8%)の順。対前年伸び率は、ベトナム(26.7%)、インドネシア(23.4%)、ネパール(12.5%)が高い。在留資格別では、「専門的・技術的分野の在留資格」の労働者数が329,034人で、前年同期比52,264人、18.9%の増加。また、永住者や日本人の配偶者など「身分に基づく在留資格」の労働者数は531,781人で、前年同期比36,113人、7.3%の増加などとなっている。就労ビザのみならず、永住者や日本人の配偶者の資格で就労する外国人が50万人を超えていることは注目すべき点である。つまりすでに外国人労働問題は、短期的な就労と考えることはできず、すでに日本社会に長期的に定住している市民と考えるべきであり、労働問題のみならず、国際離婚や子供の親権(国境を越えての親同士の子供の奪い合いや面会交流実施の確保)、子供の国籍(二重国籍)、相続や老後の後見制度など家族や福祉を巡る問題も市民社会的かつ国際的視点で制度設計することが必要不可欠であり、かつ急務であることを意味する。

3、多言語生活情報サービスの現状

上記の統計が示すとおり、日本には既に多くの外国人を労働者やその家族として、あるいは日本人の配偶者として受け入れており、すでに社会の一員となっている。政府も2018

年12月、外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策を公表し、全国役100箇所に行政・生活全般に関する情報を多言語で提供する「多文化共生総合相談ワンストップセンター」を設けるとしており既にいくつかの自治体では医療、子育て、福祉、DV、行政手続きなどについて総合的に相談できる外国人相談窓口を設置しており、今後の制度のさらなる充実が期待される。医療通訳を配置する病院も増加しており[4][5][6]、政府や自治体も多言語で様々な生活情報を発信している[7][8]

しかし、法的サービスや救済制度の分野では、多言語サービスは十分ではない。特に労働の現場では、外国人・日本人にかかわらず、未払賃金(最低賃金、残業代未払含)、パワハラ・セクハラ、不当解雇、退職強要、労働条件の不利益変更、賃金差別など様々な労働問題があるが、外国人労働者の場合、日本の労働法の知識はもちろんのこと、契約書や就業規則がすべて日本語で記載されている場合は、内容が理解できず、違法・不当な労働条件であることに気づかない場合もある。解雇や退職により在留資格を失う可能性もあるため(特に技能実習生の場合は、原則的に転職の自由がなく、また送出機関やブローカーに多額の借金をしていることも地位の脆弱性の原因である)、日本人に比べより不当な扱いを受けやすい立場にあるにも関わらず、適切な場所に相談をすることができないことが少なくない。またアジア系・アフリカ系に対して強い差別意識や優越感をもつ日本人は多く、日本人や欧米系の白人の外国人には決して行わないような人種差別的で見下した態度をとることも日常茶飯事である。

 こうしたなか、労働相談や労働法に関する情報提供を多言語で行う取り組みも整備されつつある。例えば、東京都の労働相談情報センター(TOKYOはたらくネット)では、英語と中国による労働相談を実施するほか[9]、外国人労働者ハンドブック(英語と中国語)を作成したり[10]、2019年10月には英語による労働法講座を開催するなど(当職が講師を務めた)、日本語ができないことが権利行使や相談へのハンディにならないよう多言語による相談・情報提供、あっせん等を行っている。また東京都労働委員会は、不当労働行為や労働委員会による労使関係調整制度について英語で情報提供している[11]。また厚生労働省は、男女雇用均等法や育児介護休業法に関する労働局の紛争解決手続きについて英語でパンフレットを作成している[12]

 弁護士会や弁護士の活動として注目されるのが、指宿昭一弁護士(東京)、高井信也弁護士(東京)、加藤桂子弁護士(東京)、大坂恭子弁護士(名古屋)、小野寺信勝(北海道)らが設立した外国人労働弁護団[13]や外国人技能実習生問題弁護士連絡会[14]である。これらの団体は技能実習生や外国人労働者から多言語での労働相談を全国から受けるほか、企業側との交渉、裁判、社会啓発、省庁交渉、メディアとの勉強会など精力的な活動を行っており、弁護士団体として極めて画期的である。彼らの精力的かつ地道な活動なくしては、技能実習生や留学生の労働搾取や人身取引の過酷な実態は可視化されなかったであろう。またNPO法人「移住者と連帯するネットワーク(移住連)」や教会関係者、NPO法人POSSEの外国人サポートセンター[15]なども労働法や入管実務に詳しく、かつ語学が堪能なスタッフがおり、常設の労働相談のほかアドホックな電話相談会を実施している。なお外国人技能実習機構も技能実習生向けに母国語による相談窓口を設けている 。しかし母国語による相談窓口を設けただけでは、被害を受けた当事者が相談をするとはかぎらない。技能実習機構は、就労先から人権侵害・労働搾取を受けている技能実習生にとってみれば、雇用先と一心同体の加害者であり、相談することにより強制帰国の可能性もあるという恐怖心がある強いのであり、外国人技能実習機構とは別に、技能実習生が信頼、安心して相談できる相談先にアクセスできる体制作りは極めて重要である。

4,多文化共生社会における法的救済制度に必要な3つのA

国籍、言語、在留資格の有無に関わらず、すべての人が法的に保障された権利を行使し、侵害された権利の回復や救済を求めるためには、単に法律で権利義務を明記するだけではなく、実効的に権利行使できる救済システムが必要不可欠である。法的権利救済の実効性確保のためには、3つのAの要素が必要である。すなわち、Accessibility (アクセスのしやすさ。距離、言語等によるアクセス障害の解消)、Affordability( 費用が手頃であること)、Accuracy (法的権利や救済手続きに関する情報の正確性)である。

まずAccessibility について検討する。既述のとおり東京は比較的、多言語サービスが充実しているが、技能実習生など地方で居住・就労している外国人も多い。言語や居住地によるアクセス障害を解消をするためには、法律家や労働組合、各種支援団体による出張相談、遠隔地からの電話やSNSを通じた相談、多言語相談に柔軟に対応できる不可欠である。未払賃金債権や労災給付の権利があるのに、すでに母国に帰国してしまった場合など、海外や遠隔地方に居住する人や病気や障害、あるいはDV・人身取引被害者など軟禁状態にある場合、外出が難しい人からの相談は日本人・外国人を問わずに潜在的需要は多いと思われる。日本司法支援センター(法テラス)は、全国共通の電話番号で多言語情報サービスを提供しており、日本の法律制度や相談窓口情報を英語、中国語、韓国語、スペイン語、ポルトガル語、ベトナム語、タガログ語の7カ国語で提供している。

一方、人権救済の最後の砦である裁判所の多言語対応は、極めて遅れている。裁判所では、離婚、相続などの家事事件、労働紛争解決制度、一般民事調停など裁判手続についてわかりやすく説明したリーフレットを多数、そろえている。離婚や相続などの家事事件などについいては、裁判所のホームページから申立書や関連書類をダウンロードすることができ日本語ができる日本人にとってはとても便利である。しかしこれらはいずれも日本語で作成され、申立書等もすべて日本語で記載しなければならない。日本においては、裁判所への提出資料はすべて日本語で記載するか、和訳を添付することが求められており(民事訴訟規則138条、裁判所法74条)、日本語が不自由な外国人が司法手続の利用を躊躇したり、あきらめたりする原因となっている可能性が高い。離婚等の家事調停や労働裁判(訴訟、労働審判を含む)については、外国人労働者の増加に伴う労働トラブルの増加によって潜在的需要が高く、実際にも外国人による申し立ては増加しているが、外国語で対応可能な調停委員や審判員の人員は極めて少ない。そのため外国人は自ら通訳人や外国語の堪能な弁護士を自ら探さなければならない一方、法律相談や受任ができるレベルに外国語が堪能な弁護士の数は少ない[16]。労働事件に関わる労働者側の弁護士の外国語の習得は今後、必須である。

次に、事件当事者や証人が海外に居住しており、海外から日本の裁判所に調停・労働審判申立や訴訟提起がなされる事案も増加するであろう。日本の弁護士を代理人とすれば、当事者本人が海外にいても調停・裁判手続きを進めることはできるが、自ら直接、当該手続に参加することできないのは極めて不公正であり、また日本で裁判するためには、多額の費用と時間をかけて来日を要請するのは非効率かつ不合理である。すでに国内においては、当事者の一方が遠隔地に居住している場合は、当該当事者は最寄りの裁判所に出頭すれば係属裁判所に直接、出頭しなくても電話会議システムを通じて、調停・裁判手続きに参加できる(民事訴訟法170条3項、204条1号、家事事件手続法258条1項、54条)。外国の裁判所が日本に居住するものをテレビ会議や電話会議で証人尋問したいと考える場合、国によっては、在日本大使館において本国の裁判所とつなぐなどして証人尋問が実施されているようである[17]。今後は、海外の法律事務所、裁判所、大使館等の限定された場所に出頭すれば、電話会議システムを通じて、海外から訴訟・調停手続に参加可能なシステムの検討も必要であろう。

 次にAffordability について検討する。生活困窮者であっても法的救済を受ける権利があることは日本人であっても外国人であっても、さらには正規滞在であろうと非正規滞在であろうと異なることはない。経済的理由や在留資格の有無を理由に、侵害された権利の救済を受けることができない事態はあってはならない。この点、経済的な理由で弁護士費用を支払う資力のない人については、日本司法支援センター(法テラス)の民事法律扶助や日本弁護士会の委託援助という制度がある。しかし法テラスは、在留外国人の場合は、中長期の在留資格を有することが利用条件であり、非正規滞在や短期滞在の外国人は利用資格がない。

これは総合法律支援法が、民事法律扶助の享有主体を日本国民及び我が国に住所を有し、適法に在留する者、と定め、我が国に適用に在留していない日本国籍を有しない者(非正規滞在外国人)を除外しているからである。いわゆる非正規滞在外国人は日弁連の委託援助を使うことになる。また近時、法テラスや委託援助によって支払われる弁護士費用は着手金、報酬とともに一般的な法律事務所の報酬規定の3分の一程度の低廉な水準であるため、事務所経営や労力に見合わない弁護士費用による徒労感から弁護士は法テラス・委託援助案件を受けたがらないのが現状である。特に外国人事件の場合、日本の法制度や文化の違いを懇切丁寧に説明したり、通訳人を介しての意思疎通となるため、労力と手間がかかる。多量の資料の和訳・外国語訳を要する場合もあるが、通訳費用や翻訳費用は上限があり、これを超えると弁護士の自腹か本人負担となる。ちなみに外国語のできる弁護士の場合、事務処理の迅速性からみずから翻訳・通訳を行うが法テラスから翻訳費・通訳費は一切、支給されない。不法滞在や在留期限の到来間近な外国人をその立場の弱さから長時間労働をさせたあげく、賃金不払という雇用主も少なくない。こうした外国人は、帰国間際に、未払い賃金や残業代を請求したいと弁護士のところに駆け込むことも少なくない。しかしその金額は、20万~30万程度であるため(母国の水準からは大金であることが多い)、弁護士としても費用対効果や事件の手間を考えると受任を拒否せざるを得ない。受任弁護士に経済的負担を負わせる法テラスの低すぎる援助水準は結局、平等かつ実効的な司法アクセスという制度の理念と乖離する結果をもたらしており、弁護士会としても法テラス水準の増額に強い申し入れをしていくべきであろう。

3つ目にAccuracy (正確な情報提供)について検討する。法律で保障された権利を行使するためには、自らの権利や救済手続きに関する情報を正確に知ることが不可欠である。行政機関や裁判所のみならず法的サービスの提供者である弁護士会や各弁護士団体、法律事務所、労働組合による多言語による情報発信やアウトリーチ、多言語による労働法講座の実施が必要である。

5, 権利行使を阻む在留資格

法的救済手続きと在留資格の問題について述べたい。日本に滞在する外国人は、すべて何ならかの在留資格が必要であり、許可された在留期間内のみ日本に滞在することができる。権利侵害を受けたため、法的救済手続を利用する場合であっても、在留期限が切れれば適法に滞在することができない。その結果、在留期限が残り少ない、あるいはすでに徒過した場合は、事実上、法的権利救済手続きを利用することができない。多くの場合、出入国在留管理局は、裁判手続き中であれば、短期滞在ないし特定活動[18]の在留資格を付与している。しかし短期滞在では就労ができないため、当然のことながら仕事ができない。その結果、裁判期間中の、生活費、滞在費がまかなえず、日本滞在が経済的に難しくなり、事実上、法的救済を諦めざるを得ない。少なくとも未払賃金、労災、セクシュアルハラスメントなど重大な労働法規違反が問題となっている事件については裁判期間中、就労可能な在留資格を付与したり、住居や生活費の補助の制度を整備すべきであろう。

6,クロスボーダー案件への対応

最後にテクノロジーの発展にともなうクロスボーダー案件への対応の遅れを指摘したい。インターネットコミュニケーションテクノロジーの発達により、国境を越えたクラウドワークという働き方が広がっている。雇用主と労働者、同じプロジェクトチームに所属する労働者がそれぞれ異なる国に所在しているという事態も珍しくない。不当解雇や労働条件の一方的不利益変更、賃金不払い等の労働法違反が起こっても、裁判管轄、適用法令、判決の執行力の問題が生じ、日本国内の法制度の範囲では、法的救済が不可能である事態が現実化している。筆者が実際に受けた相談では、相談者は日本人で日本居住のシステムエンジニアであるが、雇用主はイギリスに本社のある企業であり、イギリス本社と直接、雇用契約を締結している。チームメンバーは世界各国に居住しており、ミーティングはスカイプで行い、成果物はクラウド上にアップすればよいため、物理的に本社に出社する必要がない。実際、相談者は、イギリス本社に行ったことなく、採用面接もスカイプで行われたとのことである。5年間勤務したところで、ある日突然、メールで解雇通知が届いたので、不当解雇を争いたいという相談であった。また海外で勤務していた日本人が帰国後に、海外の企業を労働問題で訴えたいという場合もあるだろう。法的紛争のクロスボーダー化は、労働分野に限定されない。家事事件の分野においても、外国人の日本人、あるいは日本在住の外国人同士の離婚やこれに伴う海外所在財産の財産分与、二重国籍の子供の親権・監護権、面会交流、国際相続などの事案も増加している。また海外サーバーや海外のSNSプラットフォームを通じた、名誉毀損、リベンジポルノ、消費者被害、ヘイトスピーチ、日本人が海外渡航先(留学先や旅行先)で遭遇した被害(詐欺被害、性暴力事件など)の損害賠償等の案件も多い。こうした労働事件を含めた法的紛争のクロスボーダー化に対応するためには、各国の弁護士会等を通じて海外の弁護士と日本人の弁護士が相互に連携したり、国外から電話会議やSNS等を通じた訴訟参加制度を整備する必要があろう。

7,最後に

法的紛争の国際化は、労働や家事事件など日常生活に直結する問題に関連しており市民派の弁護士も語学力やSNSなど情報発信力や海外の弁護士との連携など無縁であってはならない。しかし労働側の弁護士や労働組合、さらに裁判所の国際化への対応や問題意識は極めて遅れている。外国人の労働問題は、労働市場や経済のグローバル化の一側面であり、弁護士がかかる潮流に乗り遅れていては人権侵害を効果的に救済することができないのではなだろうか。

[1] アメリカワシントンDCを本拠地とする法律家団体「Human trafficking legal center 」は、児童労働、性的人身売買に関する国際裁判を代理人として行っており、MLでは世界の法律家らが活発に人身取引に関する裁判例や各国の取組ついて議論・情報提供が行われている。https://www.htlegalcenter.org/ [2] Asia pro bono conference は毎年1回開催され、アジア・太平洋諸国を活動拠点とする世界各国の人権活動家や法律家が集まり移民・難民を巡る諸課題、人身取引、表現の自由など様々な人権課題に関するディスカッションやプレゼンテーションが行われる。https://www.probonoconference.org/ [4] 大阪の独立行政法人りんくう医療センターは英語、中国語、ポルトガル語、スペイン語の医療通訳サービスを無料で提供している。またウェブサイトも英語と日本語の二言語で作成されている。http://www.rgmc.izumisano.osaka.jp/department/international1/international2/ [5]東京の国立国際医療研究センターは国際診療部があり、看護師資格を有するコーディネーターと中国語医療通訳がおり、また24時間対応可能な電話通訳サービスを提供している。医療通訳の費用は病院が負担している。 http://www.hosp.ncgm.go.jp/icc/010/index.html [6] 東京医科歯科大学医学部附属病院は国際医療部があり、24時間対応可能なビデオ電話通訳(10言語)に加え、希少言語は留学生や外部の通訳の協力を得て、患者が理解できる言語で説明・同意を行っている。http://www.tmd.ac.jp/ihcd/ [7] 法務省・外国人生活支援ポータルサイトhttp://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri10_00055.html [8] 新型コロナウイルス感染症に関する外国人労働者向けリーフレット(日本語)http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri10_00051.html [9] https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/sodan/sodan/foreign.html [10] https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/sodan/siryo/foreign-e/index.html [11] https://www.toroui.metro.tokyo.lg.jp/lang/en/index.html [12] https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/pdf/funso_en.pdf?fbclid=IwAR3omTwbhhFmTQszQ6-y1x8vfu7cUyZ2HmI48QXje-suUQmEXv7LYilZHxs#search='Inquire+at+teh+equal+employment+office [13] https://grb2012.wordpress.com/ [14] http://kenbenren.www.k-chuolaw.com/index.html [15] https://foreignworkersupport.wixsite.com/mysite [16] なお東京家庭裁判所では国際離婚事件の増加に対応するため外国語が堪能な調停委員を配置しており、待合室等の表示も英語・日本語で表記されている。一方、当職が東京地方裁判所での労働審判手続で語学が堪能な労働審判員を配置してほしと要望したところ、そういう対応はしていないとのことであった。 [17] 池田綾子「国際化時代における日本の裁判手続の課題と展望」(自由と正義2016年5月号)、土方恭子「当事者や証拠が外国に存在する場合の送達及び証拠調べ」(自由と正義2016年5月号)参照。 [18] 会社都合の解雇の場合、就職活動を前提に特定活動へ在留資格変更が認められるが、本人の業績不良等を理由とする解雇の場合は、特定活動への変更は認めない扱いである。しかし、多くの不当解雇事例は、本人の業績不良等を理由としており、会社が会社都合解雇を認めることは皆無に等しい。

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